4,000システム、50,000データベースをワンプラットフォームに連携
従来開発に費やしていた時間が半分前後に、コストは3分の1程度まで圧縮
あるシステム開発は、検討からリリースまで実質2週間で実現
オンプレミスのグループウエアをクラウド型の統合プラットフォームに
業務やサービスのデジタル化に関する取り組みでも生保業界をリードしており、16年には、今でこそ業界では当たり前となっている「保険」(Insurance)と「テクノロジー」(Technology)を融合させた「InsTech」(インステック)への取り組みをいち早く開始。ベンチャー企業やスタートアップとのオープンイノベーションなどを通じ、医療ビッグデータ解析に基づいて革新的な商品やサービスを次々と創出しています。また、全社員および組織の生産性向上に向けた働き方改革(ワーク・スマート)を成長戦略として位置付け、全社を挙げて取り組んでいます。
このようなビジネスを取り巻く環境の変化に対応する取り組みを進める一方で、第一生命はIT業務変革の一環として、オンプレミスで運用されていたグループウエアをクラウドベースの仕組みに刷新し、さらなる社員の働き方改革を目指す「DNOW」(ディーナウ:Daiichi NewNormal OneStepAhead WorkStyleの略)と名付けられたプロジェクトを推進しています。
その目的について、「隙間時間を活用し、どこにいても、パソコンやスマートフォンで社内のあらゆる情報にアクセスできる環境を整えることで、社員の生産性を高め、お客さまへの対応や商品・サービスの提供がタイムリーに行える世界観を目指しています」と語るのは、「DNOW」プロジェクトを統括する同社 ITビジネスプロセス企画部 IT運用管理課 ラインマネージャーの吉留栄太氏です。
そうした世界観に則したソリューションとして、「DNOW」プロジェクトに採用されたのが、ServiceNowのクラウド型業務用プラットフォーム「Now Platform」です。第一生命は、社員が日々の業務で利用するグループウエアの基盤を「Now Platform」に置き換えることで、社員の働き方を大変革することを目指しました。
宮崎 元輝氏
ITビジネスプロセス企画部IT運用管理課
第一生命では、以前からオンプレミスのグループウエアを活用してきました。その基盤上にはメインフレーム上のお客さまや契約に関連するデータやプロセスに様々なデータベースを構築し、それらを管理・閲覧・処理するためのEUC(End User Computing:基幹業務系システム以外のシステム群)も次々と基盤上に搭載しました。その数は年を追うごとに増え、現在では約4,000ものシステム、50,000近いデータベースが稼働しています。
「保険契約は20~30年と長期にわたることが多く、お客さまも増え続けているので、結果的にデータベース群や、それを処理するシステム群も膨らんでしまうのです」と吉留氏は説明します。システム群やデータベース群の増大は、ビジネスの成長の証しとも言えるわけですが、これらが増え続けることで、社員の業務効率が下がってしまうというジレンマも顕在化していたのです。
「それぞれのシステムやデータベースが十分に連携されておらず、横断的なプロセスの管理やデータの活用が不十分でした。また、4,000もシステムがあると、見たい情報がどこにあるのかを探すだけでもひと苦労でした」と語るのは、第一生命のシステム開発や運用・保守などを受託する第一生命情報システム(DLS)で、クラウドサービス推進部 クラウドサービスソリューショングループ長を務める千葉和貴氏です。
一方、「情報ごとやシステムごとに別々のウィンドウを開かなければならなかったのも非効率でした」と語るのは、第一生命 IT運用管理課 アシスタントマネジャーの宮崎元輝氏です。従来のグループウエアは、業務ごとにポータル画面やTo Doリストを用意するなど、個別最適となっているケースもありました。「これを単一のウィンドウやポータルから、あらゆる情報にアクセスできる仕組みに変更できないかと考えたことも、『DNOW』プロジェクトが動き出す大きなきっかけの一つです。そうなれば、ユーザーが自身で情報を探すのではなく、1つのデータベースに蓄積されたデータをシステムがユーザーに対してpush型で提供する、自身のすべき仕事が1つのUI (ユーザーインターフェイス)で把握ができます」と宮崎氏は語ります。
また、従来のグループウエアはオンプレミス上に構築されていたため、拡張性に乏しいことも大きな課題でした。吉留氏は、「システムやデータベースが今後も増え続ければ、その都度、多額のお金と時間をかけてハードウエアを拡充していかなければならなくなります。ビジネスニーズの変化に応じてタイムリーかつ柔軟に拡張できるクラウドベースのグループウエアに刷新すべきではないかと考えました」と説明します。
ServiceNow導入前の課題
● 情報やシステムにすぐにアクセスできるグループウエアに刷新したい
● ビジネスニーズの変化に応じて柔軟に拡張できる基盤に置き換えたい
隙間時間を有効活用するため「Now Platform」を選定
もう一つ、第一生命がグループウエアの刷新を検討した理由は、社員がいつでもどこでも業務に必要な情報にアクセスできる環境を整えたいというものでした。
同社は以前から、希望する社員にOA環境を提供していましたが、国を挙げての「働き方改革」の流れを受け、本格的なテレワークのための環境整備にも着手し、18年から20年にかけて、テレワーク利用を前提とした小型のノートパソコンやスマートフォンを、原則全社員に展開してきました。ところが、従来のグループウエアはスマートフォンに対応しておらず、これではせっかく配布したスマートフォンの利便性が生かせません。そこで、新たに導入するグループウエアは、パソコンだけでなく、スマートフォンでも利用できるものにしたいと考えたのです。
これらの要求を満たすグループウエアの基盤として第一生命が選んだのが、ServiceNowの「Now Platform」でした。「Now Platform」の最大の特徴は、既存のシステム群やデータベース群を一元化し、全社共有されたデータを基に、複数の部署間やチーム間にまたがる業務プロセスをエンドツーエンドで処理できる点にあります。この特徴を生かせば、グループウエア上で構築したシステムやデータベースだけでなく、基幹系をはじめとする社内のあらゆるシステムとの連携が可能となり、情報へのアクセスと処理の利便性が格段に向上します。
しかも、「Now Platform」は、画面デザインやメニュー配置の優れたUI/UX(ユーザーインターフェイス/ユーザー体験)を実現する機能を備えており、工夫によって欲しい情報にたどり着きやすくすることもできます。スマートフォンやタブレット端末など、様々なデバイスでの使用が可能であり、ユーザーのあらゆるニーズに応えるServiceNowの利便性の高さも魅力であったと言います。
こうして20年4月、「DNOW」プロジェクトは正式に始動しました。
ServiceNowを評価したポイント
● 複数部署やチーム間にまたがる業務プロセスをエンドツーエンドで処理できる
● 優れたUI/UXを実現できる
● スマートフォンでも利用できる
ユーザーでもアプリが開発できるServiceNowの「App Engine」
「DNOW」プロジェクトの最前線で新たなグループウエアの開発・構築に携わったDLSの千葉氏は、ServiceNowについて「それまで使用していたグループウエアとは“アーキテクチャ”も“考え方”も異なり、まずはそれを理解するのに苦労しました」と振り返ります。開発が本格的に動き出す直前の20年4月に、新型コロナウイルスの影響で最初の緊急事態宣言が発出され、1カ月ほどスケジュールが先延ばしになってしまいましたが、「幸いというべきか、その間が逆に良い勉強期間になりました。ServiceNowによる支援も受けたことで、より理解が深まったと感じています」(千葉氏)。
プロジェクト初年度の20年には、DNOW基盤とすべてのシステムへの“入り口”となるグループウエアのポータルサイトが完成。2年度目以降は、このポータルからあらゆる情報が呼び出せるように、システム群、データベース群を1つずつ連携させていく作業が本格化しています。
一方、従来のグループウエア上で開発した業務用アプリケーションを「NowPlatform」上で動くシステムに作り直していく作業も並行して進める必要があります。システム数は4,000にも及び、やはり数年がかりの作業になると予想されますが、「Now Platform」上の、システム開発の工数や期間を大幅に短縮できるノーコード・ローコード製品「App Engine」により、作業の効率化を図っています。「App Engine」は、専門的なプログラミング知識や技術がなくても、ノーコード・ローコードでアジャイルにてシステム開発できるのが大きな特徴です。システムの種類や機能にもよりますが、従来開発に費やしていた時間が半分前後に、コストは3分の1程度まで圧縮できます。
第一生命はこの「App Engine」によって、簡単なシステムならユーザーでも開発できるようになり、生産性向上につながるのではないかと期待しています。「すでに開発済みのアプリを、自分たちが使いやすいようにカスタマイズすることもできます。例えば、様々な情報の中から、自分の見たい項目だけが優先表示されるように作り替えるといった工夫が凝らせるはずです。職種や業務内容に応じて、自由に使いこなしてほしいですね」と宮崎氏は語ります。
ServiceNow導入の効果
● 旧グループウエアのアプリを移行するシステム開発の工数と期間が大幅に短縮
● ノーコード・ローコードなので、ユーザーでもアプリが開発できる
お客さまへのサービスの品質向上にも結び付けたい
「App Engine」を使って開発したシステムの中には、すでに社員から高い評価を集めているものもあります。その一つが、生涯設計デザイナー(営業職)に朝礼で使用する教材をオンライン配布する目的で作った「支社掲示板」です。「『DNOW』プロジェクトは20年4月に本格始動しましたが、直後に緊急事態宣言が発出され、全国の営業員が在宅勤務を余儀なくされてしまいました。そこで自宅にいても教材を閲覧できるように急いでシステムを開発したのです」(宮崎氏)
このシステムは非常に好評で、今では会社から生涯設計デザイナーへの教材や情報は「支社掲示板」を使って発信するのが当たり前になりつつあるそうです。
吉留氏は、「ServiceNowのメリットは、相互参画型のプラットフォームであり、両社が共に成長していけることにあると思います。当初は正直不安もありましたが、実際に使ってみると、非常に簡単にシステムが作れることを実感しました。実際あるシステムは、検討からリリースまで実質2週間で実現しています。移行作業を進めていきながら、今後は活用をさらに促していきたいですね。また、現段階では働き方改革や生産性向上にプロジェクトの重点が置かれていますが、いずれ、お客さまへのサービスの品質向上にも結びつけていきたいと思っています」と抱負を語ります。「DNOW」プロジェクトの成果は無限に広がりそうです。